ニュースの感想

政治評論家の三浦瑠麗氏が、TV番組で

(三浦氏)「スリーパーセルといわれて、もう指導者が死んだってわかったら、もう一切外部との連絡を絶って都市で動きはじめる、スリーパーセルというのが活動はじめるって言われてるんです。」
(司会者A)「普段潜っている暗殺部隊...」
(三浦氏)「テロリスト分子がいるわけです。それが、ソウルでも、東京でも、もちろん大阪でも、いま、大阪けっこうやばいって言われていて」

という会話を展開し、その論拠として、
http://lullymiura.hatenadiary.jp/entry/2018/02/12/205902
という、これまた中々な論考を示したことが物議をかもしています。

 勿論私は安全保障の専門家でも何でもない地方の一知事にすぎませんが、何にでも口を挟むことが好きな上に、割と戦記物が好きでローマから現代まで様々な戦記を読んできたもので、中々興味深い論ではあると思います。そこでこれまで読んできた書物と今迄の個人的経験を根拠に、この某国の指導者が死んだ途端外部と一切連絡を絶って都市部で暗殺を始める「スリーパーセル」という戦略を某国が本当に実行しているのか、その容易性・有効性について少し考えてみようと思います。

 まず、特段某国に限らないことですが、恐らく日本には、諜報活動にいそしむ各国の情報員は相当数いるものと思います。ただそれらの多くは基本情報を収集して報告することが任務でしょうし、現下の当局の調査能力を考えれば相当割合は監視下にあり、テロの準備・実行どころか違法な諜報活動をしているものさえ限定的だろうと思われます(違法活動をすれば直ちに摘発されてしまいますから。)。
 さてそれでは、そういった情報員に、某国指導者が死んだ瞬間に外部との連絡が一切ないままテロを起こさせる「スリーパーセル」戦法の実行は三浦氏が思っておられるほど、容易かつ有効でしょうか。
 私はそう簡単な事ではないと思います。
 まずもって、テロを実行する以上自分も高い確率で死ぬわけで、実行するにはそれ相応の「理由」が必要です。氏は日本の特攻隊や小野田少尉のような例を想像しているのかもしれませんが、あれは勿論国への想いもあったでしょうが、同時にそうしなければ軍法会議にかけられて自分が殺されかねないばかりか家族にまで累が及ぶ可能性があるというプレッシャーがあった一方、誰一人日本が崩壊するとは思っておらず、曲がりなりにも実行すれば2階級特進、家族は安泰と思っていたことも大きいものと思われます。指導者が死んでしまい、体制の崩壊が目前となっている状態でわざわざテロを実行して自分が死んでもほとんど何の得もなく、しかも何と某国には一切連絡をしなくてよい逃げ放題の状況で、自らも死亡する確率の高いテロを実行する理由が見当たりません。その状況なら、テロの資金を懐に入れてとっとと身をくらませるのが、普通に考えて情報員にとって個人としては最適な戦略です。
 某国情報員はもしかしてそのような状況であっても「主君に準ずる」的な忠誠心を有しているのかもしれませんが、人間「去るものは日々に疎く近づくものは日々に親し」で、指導者の死後数日であってももう世の中に居ない人への忠誠心がみるみる衰えるだろうことは想像に難くありません。かつそもそもそのような忠誠心を持たせるには、少なくともその情報員にとっては良い指導者である必要があり、という事は普段からその情報員及びその家族に、それ相応の待遇をしなければならないという事になります。
 つまり「スリーパーセル」戦法は、それを実行させるためには普段から結構な待遇で情報員を維持しなければならない割に、実行段階ではノーチャック、情報員の心理を考えると極めて実現性が危うい戦略だという事になります。
 その上、例え忠誠心にあふれる精悍な20代の情報員を送りこんだところで、20年間放置しておけば、見事40代のお腹の出たおじさんになってしまいます。テロリストとしての戦闘能力を保つには、人知れず現地訓練にいそしませるか、現地訓練なしなら数年単位で人員を交代しなければいけません。
 勿論銃器や爆発物、毒物を用いれば40代のおじさんでもテロは可能かもしれませんが、それはそれで銃器の整備、爆発物、毒物の管理が必要です。
 いずれにしても経費も掛かる上人目に付き、更にそれを秘密裏に実行するとなると、昨今の当局の調査能力を考えれば、隠蔽費用を含め常時相当な資金をかけなければなりません。
 乏しい行政経験ではありますが、日本で秘密裏に、例えば僅か10人規模のテロリストを常時訓練して戦闘能力を保ち、指導者が死んだ後でも欠片ほども揺るがない忠誠心を保ち続けるためには、毎年数億~10億規模のお金は必要でしょう。
 しかも繰り返し、それだけのお金をかけた情報員が、ノーチェックの状態で本当にテロを実行してくれる保障はなく、相当に高い確率で、テロ資金をもってトンずらされてしまいます。

 その上更に、仮に首尾よく(?)テロを実行したとして、それは恐らく全く戦況に影響を及ぼしません。
 そもそも某国が現在とっている戦略は、普通に見て「アメリカへの反撃能力を有することによる、自らの体制崩壊につながる戦争の抑止」です。将来的野望はいざ知らず、某国も現在アメリカと総力戦になったら数日と持たない事は分かっているからこそ、なけなしの外貨を、一撃必殺、一瞬で反撃できるミサイルと核開発につぎ込んでいるように思われます。
 ところがこの「スリーパーセル」戦法は、性質上戦争開始前はその可能性を秘匿せざるをえないわけですから、某国が最も欲していると思われる「自らの体制崩壊につながる戦争の抑止」効果はほぼゼロです。
 仮にアメリカと戦争になり、自衛隊が何らかの形でそこに参加し、テロで日本の都市機能を混乱させ、戦争維持能力を低下させる事に成功したところで、勝負はその戦争維持機能を発揮する必要もないまま数日間のうちに現有戦力でついてしまいます。戦局を転換するようなテロを実行したいなら米軍基地若しくは自衛隊基地を攻撃するしかありませんが、それには10人や20人の情報員ではなく、正規部隊が必要でしょう。

 つまり「スリーパーセル」戦法は、合理的に考える限り、維持経費がものすごくかかるにもかかわらず、某国が最も求めていると思われる体制維持のための戦争抑止効果は皆無で、実行段階で何のチェックもできずに単につぎ込んだリソースを持ち逃げされるリスクが極めて高く、その上首尾よく実行されたところで結局戦局にはほとんど何の影響も与えない、およそ容易とも有効ともいえない戦法なのです。
 本当に某国は、制裁によって某国にとっては最も優先順位の高い某国指導者が個人的に使うための外貨すら枯渇しつつあると伝えられているこの状況下で、そんなコストパフォーマンスの悪い戦法を実行しているのでしょうか?勿論某国指導者が、物事を合理的に考えるタイプなのかどうかは分かりませんから結論は不明ですが、私には実行していると思う根拠が見当たりません。

 ところで因みになのですが、某国指導者が極めて合理的だった場合、実はこの「スリーパーセル」戦法には、極めて容易かつ有効でコストパフォーマンスが良い代替戦法、その名も「エアスリーパーセル」戦法が存在します。
 すなわち、自らは一切なにもしていないのに「あなたの国には、スリーパーセルがいるよ。戦争始めると怖いよ。大変だよ。あなたの周りの某国人が怪しいかもよ。」と意図的に、怪しげなメディアや中途半端な識者・評論家等々に情報を提供して言わせまくるのです。これなら、自らの払うコストはほぼゼロで大っぴらに宣伝して恐怖を与える事で、最も欲しかった体制維持のための戦争抑止効果を得る事ができます。
 更にこの「エアスリーパーセル」戦法によって合法的平和的に日本国内にいる某国人に憎悪の目が向けられれば、それを針小棒大に喧伝して、日本の国際的評価を下げて国際交渉を有利に運び、さらには国内外での某国人の愛国心を高揚させて団結を図るという副次的効果も期待できます。
 冒頭で紹介した三浦氏が自らの論拠として提示した論考で引用されている安っぽい証拠は、実際はむしろこの「エアスリーパーセル」戦法がとられている事を示唆するもののようにも見えます。

 「リアルスリーパーセル」戦法と、「エアスリーパーセル」戦法のどちらがとられているのか勿論私は分かりません。何であれ、情報員の監視と、テロの抑止が必要な事も論を待ちません。
 しかしいずれにせよ、日本にとって最適な道を欲せばこそ、我々は物事を冷静にとらえ、決して軽挙妄動によって某国を利することなく、冷静に対応するべきだと思います。


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