ニュースの感想

改革修正と「市場原理主義」

  • 米山 隆一
  • at 2007/9/12 02:14:28

 先日、前回の衆議院議員選挙で当選した1年生議員の数人が、現在の自民党の路線を「改革への逆行の危険がある」として、新たな会派を立ち上げたことが報じられました。

 

 私自身、現実に応じた改革の修正と適切な説明は確かに必須だと思いますが、「行き過ぎた市場原理主義が日本を破壊した!」と言う改革の全否定とも言える昨今の論調には、正直危惧を覚えます。

 

 揚げ足を取るようですが、そもそも「市場原理主義(Market Fundamentalism)」=「市場が最良の解決策であること」を主張する経済学者も教科書も、現代経済学の世界には存在しません。この言葉は1998年にそれこそ市場主義の権化とでもいえそうなGeorge Sorosが、「自由放任主義(Laissez faire)」を「批判する為に」使った言葉です。つまり「市場原理主義(Market Fundamentalism)」は最初からポジティブな意味、積極的な主張を全く含まない、極めてネガティブな言葉に過ぎません。実際比較的「市場」を重視する「新古典派」といわれる経済学者たちの書く教科書でも、「市場の失敗」はかならず取り上げられ、市場が上手く働く為には、極めて非現実的とさえいえる前提が必要である事が、必ず明記されています。「市場」がそのままでは上手く働かない事は、経済学を少しでもかじったことがあるものにとっては、「常識」とさえいえます。

 

 にもかかわらず、今尚「市場=Market Mechanism 」に重きを置いた経済政策が各国で採用されているのは、実は「市場が上手く機能する」からではなく、「市場以外の方法が、うまく行かない」からであると、私は思います。民主主義に関するチャーチルの言葉を借りれば、「市場経済は最悪の制度である。しかし不幸にして人類は、市場経済より効率的な経済運営の方法をいまだ見出していない」から、世界は「止むを得ず」市場機能を採用しているのだと、言えるのではないでしょうか。

 

 市場経済によってつけられた値段は、確かに滅茶苦茶です。ある人は1日で100万円を稼ぎ、ある人は11000円で暮します。1000倍の格差を合理的に説明する事は恐らく不可能でしょう。しかし、この矛盾を指摘する事は簡単ですが、「では、市場以外に、誰がいくらもらうかを、きちんと決める方法-1億人の国民の給与を1人1人決定する方法が他にありますか?」と言われると、誰もが答えに窮します。「全員を同じ給与にする」事を目指した原始共産主義は、実現すらしませんでした。「国家が公平に給与を決定する」事を建前としたソ連の共産主義は崩壊し、この建前を維持している中国には、1000倍どころか10000倍を超える給与差が当たり前のように存在しています。日本は「政官財の暗黙の了解でこれを決める」よく言えば「合議制」、悪く言えば「談合制」を取ってきたと言えなくもないのですが、それが各種の不透明な既得権益や公務員・天下り官僚の高給を生んできた事は、ご承知の通りです。

 

 結局のところ、「市場主義は欠点と矛盾だらけでだが、これを修正しようとする試みは、非常に注意して行わないかぎり、新たな恣意と不正を招き、もとの市場主義よりも一層矛盾に満ちた制度になってしまいかねない」のだと、私は思います。

 

 郵政民営化にも、開放・改革路線にも、欠点は勿論あります。ただ単純にその欠点を指摘し、過去に回帰するだけでは、そもそもそれらの改革が必要となった最初の理由=既得権益の蓄積による日本の経済力の低下と財政赤字の累積等々の問題は、全く解決しません。原点に立ち返って、改革の利点と欠点、改革を修正することの利点と欠点を冷静に分析し、現実にとりうる手段の中から、「最もましなものを選ぶ」事も、政治の現実的使命であると私は考えます。


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コメント

何回も落ちた某国家試験を受験するためにだけしか経済学をやったことのない俺が喋ります(笑)
社会的効用と個別的効用の調整というミクロ的側面と、仰られるようなマクロ的な経済調整の両方を考えなきゃならないと思うんですよ。
多分、みんな贅沢はしたいし金持ちになりたい。それは個人レベルでも国家レベルでも同じ。
そんな欲求のぶつかりを調整していくのも経済学の役割、そして政治そのものですよね。
実際、システムの中で不正行為が発覚したとしても、システム自体が悪いのか、部品が悪いのか、分かんないとこあるし。
極論、選挙システムすら眉唾な昨今、いっそのこと、裁判員のように抽選にしたらいいのではないかと思うんですよ。国政レベルは難しくとも、市町村ではアリだと思うんですよね?

  • Posted by きゅうや?
  • at 2007/09/12 04:47:47

非常にめんどくさい書き方をしますね。

ぶっちゃけ、文章で一番気にいったのは
>改革が必要となった最初の理由=既得権益の蓄積による日本の経済力の低下と財政赤字の累積等々の問題

のところかな。
いっつもマスコミの報道を聞いてると、どこに問題の論点があるのか解らなくなるよ。

って勉強不足・・・・・???

  • Posted by 改革
  • at 2007/09/13 19:06:31

米山先生。お久しぶりです。

 最近では「改革」=金持ちと都会と大企業優遇、弱者切捨ての方便という悪いイメージが定着してしまっていますね。

 日本で「改革」路線の印象がこれほど悪いのは(そして安部政権が崩壊したのは)「成長重視」を掲げながら年金保険料引き上げや定率減税の廃止など増税を歳出削減と並行して行ったからではないでしょうか?
 最近の日経などでは「改革」=「消費税増税+歳出削減」を意味しているようにすら感じます。
 イギリスでもアメリカでも市場重視政策や「小さな政府」路線は歳出削減と減税がワンセットになっています。

 日本の政策の背景に政府部門の巨大な債務があることは承知しています。しかし増税+歳出削減の組み合わせでは家計の可処分所得が増えないため景気回復の実感がわかないのはやむをえないのではないのでしょうか?
 仮に安部政権がブッシュ減税と同様の所得税、法人税減税策を行えばもう少しトリクルダウン効果も見られたのではないかと思います。

 私は政府部門の債務削減を優先するあまり、増税+歳出削減で景気を冷やし続ける(デフレ圧力をかける)自民党の政策には批判的です。
仮にGDP成長率が2%下がれば消費税率を10%にしたところで法人税や所得税収が減少し、結果として財政再建は不可能です。(国債残高をGDP比で比較すればむしろ財政のサステナビリティは悪化します。)

 「改革」の象徴とされる郵政民営化の政治目的は族議員の財布と目される財政投融資の資金源を根絶することだったのでしょう。しかし財政投融資の削減それ自体は(大部分が非効率な事業なのでしょうが)歳出削減の一手段に過ぎません。しかも民営化後のゆうちょ銀行に国債購入を義務付けてしまっている以上、民間部門への資金還流も期待できません。
 そもそも日本経済の問題点は民間部門における需要不足によるデフレ継続なので巨大な民間金融を誕生させたところで貸出金利の引き下げ競争が起こるだけです。
 郵政民営化はおそらく日本のGDP成長率を0.1%たりとも上昇させられないのではないでしょうか??
 あれだけ国論を二分した政策の結果がそれでは「改革」という言葉自体に幻滅する人が多数を占めるのもやむなしと考えます。

 米山先生、近くあると思われる次期衆院選では思いきって所得税、法人税の大幅減税を公約にしてください!!どの政党も減税を公約にしていないのでインパクト抜群と思いますが(笑)

  • Posted by 鉄門の後輩
  • at 2007/09/18 20:23:23

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