ニュースの感想

新型インフルエンザ対策の壮大なる試み

  • 米山 隆一
  • at 2009/5/03 00:11:19

 新型インフルエンザがマスコミの話題を独占しています。この新しい感染症に関する情報はこれでもかと言うほど紹介されていますのであえて繰り返す必要はないと思うのですが、私はニュースを聞く度に、「今回の拡散防止策はおそらくそう上手くはいかないだろうが、それでもこの試みそれ自体は、後から見たら、人類が新たな歴史を歩み出した第一歩として刻まれるかもしれないな」と思っています。

 今まさに皆が真剣に取り組んでいるときに「今回の拡散防止策はおそらくそう上手くいかないだろう」などと言うと大変申し訳ないのですが、その理由は単純です。詳細な情報がないので所詮は推測に過ぎないのですが、「この新型インフルエンザは今のところ弱毒性で、俗に言えば『大したことがない感染症』だから」です。
 「大したことがない」などと言うと怒られるかもしれないのですが、実際現在もたらされている情報から判断する限り、この新型インフルエンザによる死者数は極めて限られており、病原性において別段普通のインフルエンザと大差ないように見受けられます。「それなら根絶は簡単ではないか?」と思われるかもしれませんが、実は感染症は、激烈な症状をもたらすものの方がむしろ根絶は容易で、たいした症状を出さないものの方が根絶は難しいと言う一面があります。
 エボラ出血熱の様に発症した途端に嘔吐、下痢におそわれ、程なく全身から出血するような激烈な病気なら、潜伏期間後は患者を見逃すことはそうそうありません。従って対策としては、「見つかった患者を次々と隔離」すればそれで良いわけです。ところが今回の新型インフルエンザのように「発症しても発熱、関節痛、頭痛、咽頭痛、鼻水(所謂『風邪』の症状そのものです)、程度の症状しかもたらさない」となると、例え発症後であっても、患者さんによっては症状が軽くてそれに気づかず、日常生活の中でウィルスをまき散らしてしまいます。検疫をしようが発熱センターを作ろうが、総ての患者さんを見つけ出すことは、国民全員にPCR検査でもしない限りおよそ不可能で、従って拡散防止も困難を極めるだろうと思われます。
 そうすると新型インフルエンザは、夏期に一旦沈静化するとしても、最終的には世界に蔓延する可能性の方がむしろ高いのではないかと思います。ただもしそうなったとしても、現状で行く限りその結果は(途中強毒化する可能性は否定しませんが)、香港型とかソ連型とかといったインフルエンザの種類に、「メキシコ型」が加わるだけ、と言うのが、確率としては最も高い推測なのではないかと私は思っています。

 それでも今回のWHOを中心とした対策が意義深いと思われるのは、これがおそらく世界中の国が新たに発生した病気の拡散を防ぐべく、一斉かつ活組織的に対応しているおそらく初めての試みだと思われるからです(勿論天然痘の撲滅等、WHOは既に多くの国際的プロジェクトに取り組み、それを成功させていますが、それらは基本的には「既にある問題に、それぞれの国が順を追って対応する」ものでした)。現下の金融危機に引き続き、今回の新型インフルエンザは、経済の問題だろうが健康の問題だろうが、今や多くの危機は瞬時に国境を渡って世界に拡散し、これに対処するには世界各国が協調して組織的に対応しなければならない状況にあることを突きつけているのではないかと、私は思います。

 新型インフルエンザ対策、この壮大な試みは、その成功、失敗に関わらず、少々ユーフォリックな考え方かもしれませんが、二つの世界大戦が国連という国際機関を生み出したように、世界が世界連邦に向かって歩み出す第一歩となる可能性を秘めているのではないかと、私は思っています(勿論それは、EUの様な緩やかな連合体を経由した長い長い道のりでしょうが)。


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