昨日長岡で米百俵祭りがありました。このお祭りを主催している「米百俵委員会」は「米百俵」の精神の実現としてカンボジアに学校を作るお金を寄付しており、そのご縁でカンボジア大使を招いて「復興と教育」と題するシンポジウムを開催していました。私はこのシンポジウムに聴衆として参加しました。
 
 このシンポジウムで何より印象的だったのは、日本人側からの質問と大使の答えが、良い意味で「かみあわなかった」ことでした。日本人聴衆から、「日本人はカンボジアの学校の現状の報道などを見ると、どうしても『かわいそうに』と思ってしまうが、私はそれはおかしいと思う。大使はどうお考えですか?」「大使は現在の日本人のこころをどうお考えですか?」「カンボジアでは、どのような人材を養成したいと考えていますか?」という質問が出ました。私たちはこういう質問に対しては、「カンボジアの子供たちは日本人の子供たちよりも貧しいけれど、豊かな心がある」「日本人は豊かさの中で、かつての日本人精神を失っている」「心の豊かな人材を養成したい」という答えを予想しがちです。しかし、大使の答えは違いました。

第一の質問に対する大使の答えは、「報道される姿は、カンボジアの子供たちの悲惨さの本の一部です。実像はもっともっと、悲惨です。ぜひそのことを認識して、私達に手を差し伸べて欲しい。」で、私たちの予想を裏切るものでしたし、第二の質問に対する答えも「日本人は勤勉で、礼儀正しくて、大変素晴らしい精神を持っている。私たちは大変日本人を信頼している。ただ、傍目から見ると、もう少し生活を楽しんでも良いのではないかと思う。」という、これまた私たちの予想とは異なるものでした。第三の質問への答えは「何より平和を実現できる人材であって欲しい。そしてそれと同時に、国を発展させることの出来る、技術、経済、ITに明るい人材を育てたい」と言うものでした。

 私は、この大使の答えは、非常に示唆に富むものであったと思います。現在日本の経済と社会は、成長期を終えた踊り場にいます。率直に言って「停滞期にある」と言っても間違いではないのかもしれません。この停滞の原因を探して、多くの識者がコメントや、著作を出しています。そしてその多くが全体として「現在の停滞の原因は『日本人の心』が失われた事だ。私たちは『日本人の心』を取り戻さなければならない」と言う論調で貫かれているように思えます。そして子供たちのへの教育も、「心」の教育が最も重要なのであり、勉強やスポーツは二の次なのだと、語られることが多いように思えます。

 しかし私は、これらの意見は示唆には富むけれど、完全には同意できないと思っています。先ず、多少なりとも外国に住んで外から日本を見たものとして、現在の日本から「日本人の心」が失われているとは、正直思えません。日本人は現在十分に、「勤勉で、正直で、優しくて、何よりも調和を重んじる」民族です。私たちはそのことに、誇りを持ってよいと思います。また、私たちは、現在の停滞からつい過去を美化しがちです。しかしカンボジアの例は極端としても、貧しことは間違いなくつらいことで、いろいろ問題があるにせよ、私たちはかつてよりはるかに良い時代を生きていることは間違いないと思います。そして今の子供たちが大人になったときに今と同じ豊かさを享受するためには、カンボジアの子供たちと負けないくらいに多くのことを学ばなければならないことを、私たちは直視すべきだと、思います。

 「心」の問題は、もちろん重要です。しかし、現在の問題をすべて「心」の問題に帰してしまうことは、「精神論による思考停止」にほかならず、極めて危険な事だと思います。現在の経済的停滞を解決するためには、まずは経済システムそのものの問題点を徹底的に洗い出し、それを解決する努力をするべきです。教育の危機的状況についても、何がその危機的状況をもたらしているのかを良く見つめなおして、それを改める努力をすべきでしょう。「日本人の心」はそれらを解決する現実的努力を支えるバックボーンなのであって、それ自体が何かを解決する手段ではないはずです。「日本人の心を取り戻しさえすればすべて解決する」と考えるのは、戦中の精神論に近いようにさえ感じられます。
 
 高度成長を達成する過程で日本人が忘れた物、それは「心」よりはむしろ「物の有難み」であり、その「有難い物」を得るための、「合理的で真摯な努力」ではないでしょうか。私は、カンボジアの子供たちから何よりも、「豊かであることの有難み」「豊かになろうとする真剣な努力」を学ばなければならなくて、それを怠れば、近い将来に日本は彼らに追い抜かれてしまうと、考えます。


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