「放送法遵守を求める視聴者の会」が、加計学園問題の報道において、前川氏の証言の放送時間が2時間33分46秒、加戸氏の証言の放送時間が6分1秒で25倍なのはおかしいとして、「異常に歪んだテレビ報道 視聴者の知る権利が奪われ続けていますと言う」意見広告を出し、産経新聞の論説員阿比留氏がこの取扱時間の差を「民主主義を破壊するメディア( http://www.sankei.com/politics/news/170824/plt1708240004-n2.html )」として論評しています。

 これらの議論は「前川氏の証言と加戸氏の証言は同じ時間放送しなければならない」という事を当然の前提として立論されていますが、果たしてそれは本当にそうなのでしょうか?弁護士的観点も踏まえて論述したいと思います。

 まず、「前川氏の証言と加戸氏の証言は同じ時間放送しなければならない」は、恐らく「前川氏の証言と加戸氏の証言は同じ性質のものだ」という事を前提としていると思われますが、これは本当に正しいでしょうか。
 加戸氏は前愛媛県知事であり、加計学園の認可問題には「申請者」の立場であって、その意思決定には加わっていません。従って加戸氏の証言は要するに「外部から見て行政は適正に行われたように見える。」というものです。一方前川氏は、加計学園の認可問題が論じられていた時に所轄官庁である文部省の事務次官でしたので、まさにその意思決定に参加していたキーマンの一人でした。従って前川氏の証言は「内部から見て行政が不適正に行われたように見える。」というものだといえます。
 この二つは、一見すると対となる同等の意見のように見えますが、実は「外部から見て行政は適正に行われたように見える。」という加戸氏の証言は「当然の事」を言っており、「内部から見て行政が不適正に行われたように見える。」という前川氏の証言は「当然ではない事」を言っているという大きな違いがあります。

 分かりやすくするためにたとえ話をさせて頂きたいのですが、Aさんという人物が、「米山知事は実は女性である。」という驚愕の情報をメディアに出したとしましょう。これは、誰がどう見ても「当然ではない事」です。この驚愕の情報は、まるっきり何の根拠も無ければ勿論一笑に付されるでしょうが、例えば「たまたま温泉で見かけた時確認した。」とか「密かにサンプリングした口腔粘膜からDNA検査をしたら性染色体がXXであった。」とかと言う信頼できる根拠があるなら、すわ、「経歴詐称ならぬ性別詐称か?」という事で、多少なりともメディアの注目を引くかもしれません。
 一方これに対して、私が記者会見をして「いや私は男です。」と主張し、それを証明する証人としてBさんなる人物を連れてきてBさんが「米山知事の外貌はどう見ても男に見えます。」と言ったらどうでしょう?これは確かに私が男である事を示す一証拠には違いないでしょうが、あまりに当たり前というか、そりゃ何処からどう見ても男に見えるから、今の今まで私が男だという事を誰一人疑ってもみなかったわけで、そんなことは言ういまでもなく、メディアがこの情報をほとんど全く扱わないのは当然でしょう。

 つまり、一見同等の情報のように見えても、世の中には当たり前のことから当たり前でない事まで、ニュースバリューの異なる様々な情報があるのであり、なるべく視聴者の関心のある情報を提供すべきメディアとしては、当たり前のことは扱わず、当たり前でない情報-ニュースバリューが高い情報を扱うのは当然なのです。
 メディア的にではなく弁護士的に事案の解明を目指す裁判の場などでも、いろいろ出てくる証拠をすべて詳細に検討していたら時間がいくらあっても足りません。当たり前の証拠は、双方異論はなく裁判所もそうだろうと思っている以上詳細に検討する必要はさして無いものと整理され、時間をかけて検討されるのは裁判所の事案の判断に影響を与える証拠価値の高い証拠になります。

 加計学園問題においては、行政というのは、適正に行われるのが当然ですし、仮に内部で不適正な事が行われていたとしても、外部から見たら適正に見えるのが通常ですから、加戸氏の、「外部から見て適正に見えた。」という証言は、あまりに当たり前で、メディア的な観点からはニュースバリューが無く、弁護士的観点からも、当然過ぎて証拠価値が乏しいといえます。
 一方前川氏の「内部から見て不適正に見えた。」という証言は、真実であれば困った事態ですからニュースバリューが高く、また弁護士的観点からもそれが事実なら事案の判断に大きな影響を与える証拠価値の高い証拠ということになります。
 従って、そもそも前川氏の証言と加戸氏の証言は、ニュースバリュー若しくは証拠価値として全く性質の違うものであり、それ故、メディア的観点からも、弁護士的事案の解明的観点からも双方の扱いが違うのは当然で、「前川氏の証言と加戸氏の証言は同じ時間放送しなければならない」という前提は全く成立しないものと、思われます。

 加計学園問題において、行政が問題なく行われた事を立証するのに必要なのは、加戸氏の様な「外から見て問題なく見えた。」という当たり前な証言を、前川氏の証言と同じだけの時間繰り返すことでも、それをしないメディアを非難することでも全くなく、「内部から見ても問題なく見えた」という証言か証拠を示す事-意思決定に携わった官僚、政治家の証言や文書等の証拠をもって示すことであり、それがなされることを一国民として期待しますし、視聴者の会も産経新聞も、行政が問題なく行われた事が立証されるべきだと考えるなら、是非そのように政府に働きかけるべきだと思います。

 たとえ話に戻るなら、仮に、それなりの証拠をもって「女性疑惑」が提示され、それがメディアで燃え上がった場合に私がなすべきことは、自分の外貌が如何に男っぽいかを延々主張しつづけ、それを取り上げてくれないメディアを非難することでは全くなく、温泉かどこかでたまたま私を目撃したことがある誰かを捕まえてご証言頂くか、若しくはとっとと自らDNA検査をしてその結果を提示することだと思われますから。


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