ニュースの感想

天下り斡旋一元化と喧嘩の方法

  • 米山 隆一
  • at 2007/3/29 12:35:30

 天下りに関して渡辺行政改革担当相が提示した人材バンクの実現方法と時期について、官邸、自民党、省庁を巻き込んで論争が続いています。

 私はこの件について全面的に「人材バンクによる斡旋の一元化」に賛成です。この案に対して、省庁と自民党の一部から「官僚のやる気をそぐ」とか「省庁に優秀な人材が集まらなくなる」といった反対論が出ていますが、正直これはナンセンスだと思います。

 民間企業で、「社員のやる気を引き出す為に、退職後の就職の斡旋を行う」ところはまず無いと思います。そんなことをしたら「現在の職場で最善の結果を得ること」より、「退職後に最善の職を得ること」が優先されるのはほぼ明らかで(現に各省庁はそうなっていると言えなくはありません)、全うな経営者ならそんな手を打つくらいならボーナスの一つも出したほうがましと考えるからです。第一、世の殆どの会社員は「退職後は自分で何とかしなければならない」と言う中で、やる気を振り絞って働いているのであって、公務員だけが「退職後も手当てしてもらえなければやる気が出ない」などと言うのは甘え以外のなにものでもないでしょう。

 「天下りを斡旋してもらえなくなると省庁に優秀な人材が集まらなくなる」と言う反対論も、矢張り理由の無いものでしょう。放って置いても向こうから再就職の依頼が来るような人のことを「優秀な人」と言うのであって、「斡旋してもらえないと再就職先も探せない」人をそもそも「優秀」とは言いません。又私は、同世代の若手官僚を複数知っているのですが、彼らの中で、自分達が退職するときに現在の「天下り斡旋」が維持されていると信じているほど無邪気な人は稀で、殆どの人は自分が退職する頃にはそれはなくなっているか、少なくとも現在とは違う形になっていると思っています。彼らは、基本的には仕事が好きか、権力が好きか(別段それ自体は悪い事ではありません)、若しくはもっと現代的に、自分の市場価値を高めて、(それこそ自分で転職先を探して)より良い転職先を探す為に官庁に入っています。結局、「天下りがどうなろうが自分でどうとでも出来る人が優秀な人なのであって、そういう人は、現に省庁に入っている。それで来なくなるような人は最初から要らない」と言う、極めて当たり前の結論になります。

 ただ実のところこうして反対論を論破することは、さほどの意味を持たないと、思います。反対論を展開している省庁自身がおそらくこんなことは百も承の上で、いわば(法律用語での)「悪意」で「無理筋」の反対論を展開しているからです。

 「省庁による天下りの斡旋禁止-人材バンクによる斡旋一元化」は思われている以上に現在の官庁システムの根幹に関わる問題です。日本の官庁では、一旦ある省庁に入ったら、死ぬまでその省庁の序列の中にあり、後輩は先輩に絶対に逆らえません。各省庁の利益―所謂「省益」は、民間から公益団体に幅広く張り巡らされた天下り網と、この「鉄の結束」で維持されています。そして「個別省庁による就職の斡旋」こそが、この「鉄の結束」を維持する源泉です。各官僚は、一旦省庁ファミリーの一員になったら、「省庁ファミリーの掟」に逆らわない限り、各省庁斡旋の下、生涯安泰な地位を保証され、逆にこの「掟」に逆らったら、二度と面倒は見てもらえないどころか、「ファミリー」の圧力さえ受けるようになる、それが各省庁に次官を頂点とした絶対的なヒエラルヒーを維持する力を与えています。

 それまでこういった絶対的な力で維持されていた組織からそれが失われた時、組織がどうなるかを示す一つの例が、現在の大学医学部における医局の融解現象でしょう。かつての医学部の医局も、医局に属する限り、永遠に就職の面倒を見てもらえるけれど、一旦これに逆らうと徹底して排除されると言う、省庁と極めて似通った仕組みをとっていました。このシステムが万全だったとき、教授は絶対的な権力者で、各医局は鉄の結束を維持していました。それが医師数増によるポスト不足で十分な斡旋が不可能になるにしたがって(他にも複数の理由はありますが)、徐々にではありますが、医局の統制は緩み、現在教授の権力は(それでもまだまだ強いですが)かつての絶対性を失いつつあります。各省庁が本当に恐れているのは、これと同様の「省庁統制システムの崩壊」が起こることでしょう。

 そしてそうである以上、「天下り斡旋の一元化」がうまくいくか否かの帰趨は、「説得」や「論争」ではなく「権力闘争」、もっと俗に言えば「喧嘩」で決まると、私は思います。一般論で言うなら、こういった巨大な相手の重要な利害に関わる喧嘩に勝つ方法は、「完全な奇襲」か、「完全な総力戦」だと思います。あらかじめ万全の策を練っておいてそれをいきなりだし、相手が虚を突かれている隙に、相手にとってそれこそ絶対に譲れないところだけをさっと譲って話をまとめてしまうか、もしくは万全の布陣で、相手がなんと言おうが数の力で押し込んでしまうかでなければ、相手の組織的反撃に押し返されてしまうからです。

 現在官邸は渡辺行政改革担当相を中心に人材バンクの一元化案を固めています。ただ残念ながら、「あらかじめ案を固めておいての奇襲」と言う状況では既にありませんし、「天下りそれ自体を全面的に禁止する」というそれこそ省庁にとって「一元化」以上に絶対に譲れない格好の妥協の道具は「天下りは原則可」と言う方針を既に示すことで自ら放棄してしまっています。又、更に残念なことに、与党内は一元化には反対論の方が多く、「総力戦」を挑める状況でもありません。今後の行革相と首相と官邸を中心とした巻き返しで、首相自身が言う「戦後体制の打破」への「喧嘩」が成功することを祈ります。


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コメント

喧嘩上手といえば小泉さんを思い出しますよ。
安倍さんにもがんばってもらいたいものです。

  • Posted by ぬこ
  • at 2007/03/30 01:15:51

ぬこさん、コメント有難う御座います。この件、正に党本部と官邸で喧嘩の真っ最中ですね。結果がどう出るか注目されます。官邸の勝利を祈ります。

  • Posted by 米山 隆一
  • at 2007/04/11 18:30:55

まったくですね。
小泉さんは喧嘩上手としか見えませんでした。

現在のところ、官邸の喧嘩上手なところは見えて来ませんが、あれだけの人材が集まっているのです。負けて貰っては困りますね。

何だか暴走気味の人ばっかりでしたが。

  • Posted by こいすみ
  • at 2007/04/19 19:16:01

こいすみさん、コメント有難う御座います。

確かに実のところ安倍内閣は結構けんかに強そうな才子才媛ぞろいなので、もうすこし頑張っていただきたいなと、思うところが無いではありません(歯切れが悪いですが、御理解下さいー笑)。でもイメージをふりはらって落ち着いてみてみると最近大分実力を発揮してきて、政権の方向性が出てきた様に思えます。

公務員改革、年金改革、教育改革、そして話題の憲法改正と、真価を問われるのはこれからですが、是非ご期待いただければと思います。

  • Posted by 米山 隆一
  • at 2007/05/06 07:18:02

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