ニュースの感想

 環境省が、他県の子供4400人の甲状腺を調べたところ、1人の甲状腺癌が見つかり(100万人当たり227人)、福島県の子供25万4千人に74人の甲状腺癌が見つかった(10万人当たり291人)ことと比較し、ほぼ変わりなかったと発表しました。

http://www.asahi.com/articles/ASG3X64FWG3XULBJ00Y.html

 一見この数字は、極めてもっともに見えます(100万人当たり227人と291人ですから、大差ないと言っていいでしょう。)。
 しかし、少しでも統計を勉強したことがある人が見たら、これはかなり「?」な発表です。

 統計には、常に「推定誤差」と言うものが伴います。4400人の子供を調べたら1人甲状腺癌の子供が発見されたからと言って、それは必ずしも、子供の甲状腺癌の発生率が1/4400であることを意味しません。それはあくまで推定値で、実際の発生確率は、例えば95%の確率で(これを「5%の有意水準」と言います)、「1/4400(最低 Pa、最大Pb)の範囲に入る」と言う様に、「誤差の範囲」込みで予想されるものです。そしてこの予想される誤差の範囲は、基本的に調査数が大きくなるほど、小さくなります。

 実際に計算してみると(※)、福島県では、25万4000人に調査を行っていますので、甲状腺癌の発生確率は、5%の有意水準で、100万人当たり291人(最低232人 最高370人)と推定されます。
 これに対して他県の調査では、4400人にしか調査を行っていませんので、甲状腺癌の発生確率は、5%の有意水準で、100万人当たり227人(最低6人 最大1266人)と推定されることになります。
つまり他県の調査から言えることは、無症状の人にエコー検査をすると、従来言われていた100万人当たり1~2人よりは少なくとも6倍は患者がいるだろうとはいえる(つまり6倍程度のスクリーニング効果は、おそらく存在する)が、そこから先どの程度の患者がいるのか、確かなことは言えない、と言うことになります。

 こんなことは、調査にあたった環境省の専門家が、一番知っていることでしょう。にもかかわらず、「サンプル数が少なく、少なくとも6倍程度のスクリーニング効果があるだろうということ以外は確かではないが。」と言う前提をつけずに、「福島の子供と他県の子供の甲状腺癌の発生率はほぼ同じだと分かった。」と発表することは、ミスリードを意図していると言われても仕方がないものと思います。

 繰り返し、私は別段科学的根拠なく、放射能が福島の子供の甲状腺癌を増やしていると言いたいのではありません。放射能が福島の子供の甲状腺癌を増やしているのかいないのか、科学的データに基づいて冷静な議論を行い、更にはそれに基づいて、「除染」と言う大公共事業を継続するのか否か、冷静に判断すべきである、と言いたいのです。

 福島県の放射能について国は何かと「都合のいいデータをつまみ食い」して発表している様子が見受けられます。そういった態度は、反対派に「国の発表はすべてごまかしである。」という一種の陰謀論を生じてしまう一方で、賛成派に「反対派を冷静に説得するのは無理だから、嘘でも安全神話を言い続けるしかない。」と言う確信犯的欺瞞論を生じ、相互不信の悪循環を生んでしまいます(それこそがまさに今までの原子力政策だったと言えます。)。

 国には、是非、都合の悪いことも含めた、科学的なデータの収集、開示、発表を行い、リスクとベネフィットを冷静に比較した議論を深めていただきたいと思います。そしてその手始めに、十分なサンプル数を取って福島県の子供と福島県外の子供の甲状腺癌の発生率を測定し、その科学的分析の結果を発表していただきたいと、思います。

※計算にはClopper-Pearson methodを用いました。


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