鳩山総務大臣が、かんぽの宿一括売却問題と東京中央郵便局の再開発問題で世間の注目を浴びています。

 私は、鳩山大臣の主張そのものも、主張の方法にも、大きな問題があると考えます。

 まずかんぽの宿問題についての鳩山大臣の主張ですが、大臣はおそらく2つの事を主張しています。第1は「売却価格が安すぎる」第2は「オリックスに決まった経緯が怪しい」です。
 第1の点について2400億円かけて作ったものが109億円になってしまったのは確かに感情論としては「安く」感じます。しかし、物の値段は、「いくらかけて作ったか」ではなく、「今現在どのくらいの価値があるか」で決まります。かんぽの宿は現在毎年50億円ほどの赤字を垂れ流しています。これはつまり買った人が、買った年から毎年50億円負担しなければならないと言うことです。私ならそんな物はゼロ円でも買いません。2000億円かけようが1兆円かけようが、くずのようなものを作ってしまったらくずのような値段しかつかないのは当たり前です。くずのようなものを作った人を非難するならともかく、買った人を非難するのはお門違いという物でしょう。
 また総務大臣は入札の過程で140億円を提示した業者があったことを指摘して、本当に109億円が最高値であったか否かに疑問を呈しています。其れは確かにその通りなのでしょう。しかし、商売をした経験がある方ならすぐ分かると思いますが、そもそも物を売るときに「考え得る最高額」で売り抜けられることなど、あまりありません。入札で最高額を提示した人を選んだからと言って、それはあくまで「その時提示の最高額」であって、後から考えたらもっと他に高く買う人がいたとか、実は2番目の人の方が、トータルで見たら高い提示だったなどと言うことはよくあることです。それでもある期間内に売らなければ、現金が得られなかったり損がかさんだりするから、人は適当なところで折り合いをつけて売却します。今回の件も、109億円での売却に待ったをかけてより高い売却先を探すと言うことは、新しい売却先が決まるまで入るはずだった109億円も入らず、再び年間50億円の赤字を垂れ流し続けることを意味します。その結果本当により有利な売却先がみつかるかどうか極めて不明確で、「ともかくさっさと109億円で売って損切りする」という決断が、それほどおかしな物だったとは私には思えません。
 責任ある所轄の大臣が「安すぎる」というのなら、どういう根拠でどういう値段が適正で、誰ならその値段より高く買ってくれるかをきちんと提示して言うべきであって、「2400億円でつくったものが109億円なのはあまりに安い」と言うのでは、素人の感情論と全く変わりないと私は思います。

 第2の「オリックスに決まった経緯が怪しい」についても、基本的な問題点は変わりません。たしかに報道されている売却の経緯については、疑問点は幾つかあります。日本郵政側もきちんと説明し、もし問題点があるなら、徹底的に糾弾されるべきでしょう。しかし、「では具体的にどこが法令に反するのか?」と問われると、誰も答えられません。「怪しい」という感情論が先行していますが、日本郵政は何のかんの言って、それなりの手続きを踏んで、一定の根拠でオリックスを選んで売却しています。何より日本郵政は国が株式の100%を所有しているとは言え一民間企業であって、本来自らの裁量で自由に商行為を行うことが出来るはずで、何をするにも一定の手続きが法律で厳格に定められている役所ではありません。こういった取引を自由に出来るからこそ民営化によって効率が上がるのであって、最終的な認可権は総務大臣にあるとはいえ、これを全否定してしまっては、民営化の意味そのものが無くなってしまいます。
 自由な売却がいけないというのならそもそも民営化して自由に売却できるようにした自民党が責められるべきであって、「出来るからした」日本郵政を責めるのはお門違いですし、もし責めるなら、具体的にどの行為がどういう法令に違反するのかをきちんと指摘して責めるのが筋でしょう。如何に最終的な認可権があるとは言え、責任ある所轄の大臣が、いきなり証拠もなく「なんだか怪しい」などと言うのは、やはり厳に慎むべき事です。

 次に東京中央郵便局の開発問題ですが、こちらにおける鳩山大臣の主張はおそらく、「重要文化財『的』な価値のある中央郵便局はそのまま保存すべきだ」の一言に尽きます。 こちらも感情論としては、分からないではありません。しかし、では保存に必要な費用は誰が負担するのか、又既に始まっている工事をどうするのか、既に一部解体が行われていても尚重要文化財『的』な価値があるのかどうかについては、何の言及もありません。また大臣は西川社長を公衆の面前で罵倒していますが、西川社長は法令に反することは一切していませんし、大臣にはそもそもこの工事にとやかく言う権限はありません。正直「政治家の横槍」以上の物だとは私にはとても思えません。
 民間企業となった日本郵政が利益を追求するのは当然なことです。其れが悪いというのなら、そもそもそ民営化した自民党が責められるべきで、利益を追求した日本郵政を罵倒するのはお門違いも良いところです。又100%株主として国の意向を反映したいというのなら、まずは国会でその旨を決議してから、株主総会を開いて経営方針を決議するなり、取締役を解任して国の意向通りに動いてくれる取締役を選任すべきです。国の最高意志決定機関はあくまで国会であって、如何に所轄の大臣とはいえ、自らが直接国を代表しているかのように振る舞うのは、明らかに行き過ぎでしょう。何より保存したいというのなら、日本郵政が失う100億円の利益に対する補償、工事中止に伴う数十億の賠償金を含めて、どういうスキームでどうやって保存して、その費用を誰が負担するのかまできちんと考えて発言すべきで、法令上の根拠もなく「切手少年だった僕の思い入れがある建物を壊すとは何事だ」と言うのでは、ご発言の通り、「一切手少年の感情論」に過ぎません。

 以上両方の問題に共通しているのは、1.法令上の根拠が不明確なまま、2.確たる証拠も示さず、3.現実的な代替案も無しで 日本郵政に対する感情論的な非難が行われていることでしょう。
 私自身は郵政民営化に賛成ですが、改めるべきところはきちんと検証して、きちんとした代替案を立てて改めるべきだと考えています。大臣のような感情論での「民営化した日本郵政たたき」は極めて見苦しいだけでなく、国の政策の一貫性と信頼性を失わせ、「方向性無き迷走」を生じて、日本郵政、最終的には国民の負担を増やす結果に終わる可能性をはらみます。こういった「方向性無き迷走」の末の無駄の垂れ流しこそが、「税金の無駄遣い」の原因そのものであることを、私たちは忘れてはいけません。

 かんぽの宿の売却凍結で日本郵政には、赤字分と合わせて本来はいるはずだった160億円のお金が入らなくなります。中央郵便局の建設を中止すれば、建設業者への保障を含め、150億程度のお金が、やはり失われます。国が100%株式を保有している以上、それは、国の財産である株式の評価額が300億円下がるということ、つまりそれだけの損失が国に生じることを意味します。再売却・再開発が上手くいかなかったとき、この失われた300億円の責任をだれがどうとるのか、鳩山大臣は派手なパフォーマンスの前に、其れを説明する義務があります。


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かんぽの宿の利用について特別養護老人ホームへの活用は出来ないものなのか検討すべきと思う、反対ばかりでなく再利用の方がリスクが少ないように思えますので検討ください。

  • Posted by 福島英雄
  • at 2009/04/21 12:57:41

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