活動報告

天下りの政治学

  • 米山 隆一
  • at 2007/6/22 01:33:54

 参議院選挙の日程と絡んで注目されていますが、恐らく明日、国家公務員法改正を期して会期の延長が為されます。

 この国家公務員法改正案は、「人材バンク」を作って国家公務員の天下りを一元管理するもので、野党からは「天下り温存の官僚よりの法案」との批判が出ています。しかし実はこの法案は、期せずして「官僚より」どころではなく、政治と行政-政治家と官僚の力関係を一変させて、政治による行政の支配を確立する可能性を秘めたものだと、私は思っています。

 日本の官僚制度は、「公正中立」を最大の価値として、省庁毎に、政治の世界からは独立した人事管理を行ってきました。先のブログで書いたとおり、この「独立人事管理」は省庁内部に留まらず、退職後に至るまで、「天下りの斡旋」と言う形で継続していました。それは一面で政策の安定と継続性を生み、戦後の日本の発展を支えてきました。しかし他方で省庁は独自の人事権を持った独立王国となり、第三者の統制が利かない「省益優先主義」が生み出されました。根幹業務の年金記録の保存さえ満足に行わなかった社会保険庁長官が何の責任も負わず天下りを繰り返して巨額の退職金を得続けているのは、その典型的構図だといえます。

 これを打破して、「政治による行政-官僚のコントロール」を確立するには、本来的には、アメリカ型の「政治任用」の導入が必要だと思われます。しかし、それにはそれこそ公務員の抜本的改正が必要となり、短期間での実現は困難でしょう。

 しかし、この国会公務員法改正案は、省庁内での地位にではなく、「天下り」に「政治任用」を適用することで、そのような抜本的改正抜きで、同じかそれ以上の効果を上げることを可能とします。勿論法案それ自体は、単純に「良い人材を紹介する」事を目的として作られたもので、「天下りの政治任用」と言う意図は無かったと思います。しかし、この制度が動き出せば、結果として「天下り」への政治の関与は強まるでしょう。また実のところ、実際は政治の関与が無いとしても、「あるかも知れない」と官僚に思わせることにさえ成功すれば、「ある」事と全く同じ効果を有することになります。

 その結果今まで「省庁」の意思にしたがってさえいれば、省内での出世どころか、退職後も一生安泰な就職が保証されると考えていた官僚たちは、政治家、引いては世論ににらまれた、退職後「良い職場」にたどりつけなくなると、考えるようになります。それは恐らく、省庁内での出世レースに敗れること以上に官僚が恐れることであり、これによって政治家、ひいては世論が、霞ヶ関の首根っこを押えることが出来るようになる可能性が高いと、私は思います。

 勿論このシナリオは、私の推測に過ぎませんし、「天下り」を温存したままでそれを官僚コントロールの「道具に使う」と言う極めて「政治的」な、見ようによっては「不純」なものかもしれません。「天下り」を「道具」とすることが、場合によっては、「政」と「官」の新たな形の癒着を生む可能性も、否定はできません。しかし、年金問題、公安調査庁長官の問題と官僚制度のほころびが明らかな今、ひょうたんからコマのような形で(若しくは官邸の非常な深謀遠慮によって)、制度の副産物として生じるであろうこの「官僚統制の力」を、少なくとも公務員問題の抜本的解決がなされるまでの間、政府は最大限利用して良いし、またしなければならないと私は思います。

 国民の監視を受けた政治が、行政をコントロールすることで、国民の為の行政が行われる事を、そしてこんどこそ本当に国民の為になる年金制度、二度と拉致を起こさせない公安調査体制が出来る事を、心より期待します。


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コメント

初めてコメントさせて頂きます、大学生の原と申します。
まだ年金をもらう歳でも払う歳でもないので、今の国会では特に国家公務員改革に注目して衆議院TV などを観ていました。
米山さんのおっしゃる通り、内閣が官僚の人事を見張っていくことは、今までにない試みであり、すごい改革になるかもしれません。

しかし、その「すごい改革」になる大前提の国会審議の場で、野党の質問に対して「その問題は有識者会議で検討していただきます。」という答弁が許されること自体不思議で仕方ないです。有識者会議での検討よりも国会審議のほうが重いというのは当たり前の話ではないでしょうか?また、国会審議のほうが重いのですから、有識者会議で十分検討した後に法案としてまとめて、国会の審議の場に提出するというのが、物の道理ではないでしょうか?法案が通った後に、有識者会議での話し合いというのがどのようになされようと、もう法案は通ってしまっているのですから。

さらに、各省庁の天下りや所謂「渡り」の現状はどれだけ正確に出てきているのか正直ほとんどわかりませんでした。
この法案は、今現在存在する「国民の目から見た」天下りを根絶するための法案なのですから、いわゆる立法事実を正確に把握するというのはもっとも大事なことではないでしょうか?
この点から言えば、安倍首相及び塩崎官房長官、渡辺行革担当大臣は功績をあせっているとしか思えません。

さらに渡辺行革担当大臣は、天下りを根絶するための人材として最適な人物なのでしょうか?それは、彼の答弁から伝わってきたのですが、個別具体的な質問をされたときに、「それはよく勉強してないので、わかりません。」と前置きをした後に、一般論とすり替えてしまうのです。一般論も結構なのですが、いち国民としては、あれだけ「国民の目から見た天下りを根絶する!」と断言されているのですから、個別具体的な問題に対しても、この問題はこうこうこうしてかいけつしますよ。という、解決策を示していただきたかったのです。

以上のような問題点から、正直僕はこの案を信用しきれないんです。
あともう一点言うなら、現行の国家公務員法第78条1項及び3項は、正常に機能していないんでしょうか?正常に機能すれば、少なくとも、かなりの公務員改革ができると思うのですが・・・。

  • Posted by 原
  • at 2007/06/22 21:22:44

 原さん、コメント有難う御座います。遅いレスポンスで申し訳ありません。

 私もかねがね、「審議会」や「有識者会議」に議論を丸投げするやり方には疑問を感じています。そういった方々の意見が必要なのは確かですが、それはあくまで国会での議論の参考であるべきだと言うご意見に賛成いたします。

 天下りや渡りの現状の把握も、「全公務員」と言うことになると膨大な数ですのでなかなか難しいところもあると思うのですが、「本省課長級以上」「把握できる範囲」位に限定すれば、それほど難しい事ではないでしょう。この点も正直怠慢のそしりは免れないと思います。

 渡辺行革相については、私は適任だと思います(私なんかが判断するのもおこがましいのですが-苦笑)。私はご指摘の国会答弁を見ていないので「具体論」がどの様なものか分からないのですが、それこそ「一般論」として、答弁であまり個別論に突っ込むと、議論が混乱してしまいますので、「制度論」はあくまで「制度論」として語り、個別の議論は場を新めて行うと言うのは、そう悪いことではないと思います。議論が煮詰まってないところが多々ある法案ではありますが、それでも各所からの反対を押し切って、国家公務員法改正案が今国会を通過したのは、渡辺行革相のエネルギーがあってのことと思います。

 国家公務員法78条1項及び3項の分限免職は、正直機能していません。と申しますか、そもそもこの条項は国家公務員の職務監督を企図して作られたものではありません。これについては長くなりますので、稿を改めて述べさせていただきますので、そちらをご参照下さい。

  • Posted by 米山 隆一
  • at 2007/07/06 11:40:39

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