評論家(?)の宇佐美典也氏が、「財務省の文書改変問題について思うところなど( http://blogos.com/article/283817/ )という、これまた非常に中々な論考を書かれ、これまた恐らくは同好の士と思われる方々から、支持を受けておられます。

 氏の御見解は御見解で何を言うのも自由ではあります。しかしながら、この論考は、複数の法律的事実誤認に基づいているうえ、マスコミ、特に朝日は常に間違っているという「朝日・マスコミ常謬神話」と、行政・政府は常に誤らないという「政府・行政無謬神話」に基づいたものであり、端的に言って「論考」というよりこれ自体「神話」とでもいうべきものかと思います。
 「神話」部分はともかくとして、法律的事実誤認を放置しておくのも性に合いませんので、長くなりますがそれぞれについて、指摘させていただきたいと思います。

まずもって氏が掲げている、

「①近畿財務局の森友学園の土地売却の手続き自体は、国土交通省が匙を投げた経緯や近隣地(野田中央公園、豊中給食センター)の売却価格・事情との比較から見ても大きな問題はなかった。ゴミの土壌処理費用は高く見積もり過ぎたかもしれないが、豊洲市場の健康に全く問題ないレベルの土壌汚染処理にあれほどこだわったマスメディアに殊更それを非難する資格はない。」

ですが、正直何から何まで、意味不明です。
 森友学園の土地売却手続きは何から何まで特例尽くし、特定の一民間学校法人に対してここまでするならするで適正な理由が必要ですが、恐らくはその理由として近畿事務局が掲げたのは「政治家他」との接点であり、かつそれも国会に出す時はごっそりと削除されています。法に触れないといしてもこの特例扱いは「行政の公平性」という観点から大いに問題であり、これを「大きな問題はない。」とする氏の感覚は「政府・行政無謬神話」としか言いようがありません。
 また、「豊洲市場の健康に全く問題ないレベルの土壌汚染処理にあれほどこだわったマスメディアに殊更それを非難する資格はない。」に関しては、そもそも森友学園の土地売却問題と豊洲の問題を関連付ける意味が分かりませんが、それをさておいても、完全に論理矛盾しています。マスコミに論理一貫性を求めるなら、「豊洲市場の健康に全く問題ないレベルの土壌汚染処理にあれほどこだわった」以上、当然、「法には触れないとしても公平性の観点から問題がある森友学園の土地売却手続きも当然同程度かそれ以上にこだわらなければならない。」となるはずです。何故ある問題にこだわると、それと無関係な他の問題を批判する資格がないのか、合理的理由はおよそ見出し難く、それを説明するのは、マスコミ、特に朝日は常に間違っているという「朝日・マスコミ常謬神話」に囚われているからとでもいう他ありません。

 次に氏が掲げている

「②近畿局は籠池氏の政治家を使った要望を度々はねのけており、国有地売買の原則を守ってよく仕事をしていた。ゴミが出てきて大幅な値引きをせざるを得なくなったのは、以下の通り大阪航空局の無責任な対応の結果、近畿局が訴訟に巻き込まれる可能性が高くなったからであり、致し方ない。」

も、理解困難です。前段の、「近畿局は籠池氏の政治家を使った要望を度々はねのけており」については、交渉の初期段階では当てはまりますが、ある時点を過ぎたところから明らかに籠池氏の要望に沿った形で特例的扱いに特例的扱いを重ねており、氏の指摘は全く現実に即したものではありません。
 後段の「近畿局が訴訟に巻き込まれる可能性が高くなったからであり、致し方ない。」は更に理解できません。訴訟は、私も巻き込まれているところですが(苦笑)、相手がやろうと思えばいつでも提起可能であり、「訴訟に巻き込まれる可能性(リスク)」というのは、特にそれが不動産取引となれば、いつ何時でもあります。従って訴訟リスクがある場合は無条件に、大幅値引きに応じるのは止むを得ないという事になったら、国有の不動産を買う場合は、些細な瑕疵を見つけ出して訴訟をちらつかせさえすれば大幅値引きを得る事ができる事になっていまします。国の財産を預かる近畿財務局たるもの、訴訟リスクがあるとして、当然敗訴のリスクとその時の支払い額はどれほどで、また、相手の主張を拒否した場合に自らの主張が認められる可能性はどのくらいかを冷静に比較して対処すべきです。公表された経緯から見て、仮に大幅値引きがなかった場合、籠池氏が訴訟を提起する可能性は低くはなかったでしょうが、籠池氏の主張がそのまま認める可能性も全く高くなく、少なくとも合理的期間において合理的になした調査に基づいて算出したゴミの量に基づいて適正な値引き額を決める事はできたし、しなければならなかったと思います。
 にもかかわらず、近畿財務局の対応は「致し方ない」とする氏の結論は、政府・行政は常に間違う事はないという「政府・行政無謬神話」に囚われていると評価せざるを得ません。

次の

「③そういう意味では本件は『火のないところに煙が立った』案件であり、当然本省のキャリアがマスコミや政治の不当な非難から、地方局のノンキャリを守るべき案件だった。ところが財務省の一部キャリアは逆の選択をした。具体的には2017年2月の安倍首相の『私や妻が関与していれば総理・議員を辞める』という趣旨の軽率な答弁を受け、それにまさに”忖度”した形で、同3月に佐川理財局長の『価格提示はしていない』『交渉記録はない』という答弁ラインを作った。」

は一部はその通りでしょうが、「マスコミや政治の不当な非難」の部分については、政治家らはどうだったかは知りませんが、少なくともマスコミは特段「地方局のノンキャリ」を非難していません。
 氏が、ここでいきなり「マスコミの不当な非難」を持ち出す理由としては、氏が、マスコミ、特に朝日は常に間違っているという「朝日・マスコミ常謬神話」に囚われているからだとしか言いようがありません。

 ④については、推測が入っていますが基本事実経過ですので、概ねその通りかと思います。

「⑤こうして朝日新聞はリークに基づいて一面報道し、実際に改変作業をした地方のノンキャリア職員は、組織からも守ってもらえず、公益通報という出口も失うことになった。このような追い詰められた環境で、職員の方は不幸にして自殺という道を選んでしまった。」

については、正直全く何を言っているのか分からないのですが、公益通報制度は、労働者が法規制についての違反行為に対して、公益目的で、1.事業者内部2.監督官庁や警察・検察等の取締り当局3.その他外部(マスコミ・消費者団体等)に通報した時に、解雇や減給その他不利益な取り扱いを無効とするものです。
 このノンキャリア職員は、氏の見立てによればご自身でリークしたものではなく、もとより公益通報制度で保護される対象ではありません。また、氏の趣旨は、このノンキャリア職員がマスコミ報道に先んじて公益通報をしていれば何か非常に手厚い保護を受けられたのにその機会を失ったという事なのかもしれませんが、そもそも公益通報制度は、「解雇や減給その他不利益な取り扱いを無効とする」ものに過ぎず、そのような手厚い保護を内容としていません。また、報道されている限りこのノンキャリア職員に明示的に「解雇や減給その他不利益な取り扱い」がなされていたとの事実は確認されておらず、その意味でもこのノンキャリア職員の置かれていた状況は公益通報制度の埒外です。
 従って、このノンキャリア職員が組織から守ってもらえず追い詰められていたなら、基本的にそれはその組織-財務省、近畿財務局の問題なのであって、リークも報道も無関係だという事になります。
 にもかかわらず、氏が、あたかも「朝日新聞のリークに基づいて」の「一面報道」があったから、このノンキャリア職員が「組織からも守ってもらえず、公益通報という出口も失い」、「追い詰められた環境で」、「自殺という道を選」んだという立論をするのは、そもそも氏が公益通報者保護法を全く理解していない上に、マスコミ、特に朝日は常に間違っており、ともかく悪い事が起こったらその原因は無条件に、マスコミ、特に朝日新聞であるという「朝日・マスコミ常謬神話」に囚われているからだとしか言いようがありません。

「⑥なお3年前に地方局が決裁文書から削除したとされるメモの内容は、本省理財局業務課の担当ベースの非公式な見解を決裁文書に残しているという意味でそもそも不適切であり、修正の意図自体は十分理解できる。ただし修正手続きが取られていないのは当然問題である。」

については、「では何故、その『不適切』なメモを決裁文書に残さなければならなかったのですか」と思うのですが、氏はそのような事は欠片ほども考えないようです。

次の対策の①②については、まあいいとして、さらに氏は、

「国家公務員には守秘義務がかけられており、その対象は『職務に関連して知り得たすべての秘密』を指すものとされ、基本的には国家公務員のリークは犯罪となります。そうした犯罪を根拠としたリーク報道は『犯罪の片棒を担いでいる』と言ってもいいでしょう。」

としています。
 氏は、公務員は職務の事を何一つ話してはいけないとでも思っているかのようですが、そもそも公務員の守秘義務の対象である「秘密」は、「一般的に了知されていない事実であって、それを一般に了知せしめることが一定の利益の侵害になると客観的に考えられるものをいう」と解されています。そして、公益通報の対象となる法令違反行為は、一般に了知せしめることがむしろ利益になるものであり、秘密として保護するに値せず、公務員の守秘義務の対象外であると解するのが一般的です。氏は、7年半ほど公務員であったとの事ですが、ご自身が守るべき守秘義務の中身については全くご存知なかったということでしょう。
 更に⑤のコメントで述べたところですが、そもそも公益通報者保護法において、マスコミは通報対象であると解されており(公益通報者保護法第2条第1項)、マスコミが通報された内容をまさか報道しないはずはなく、法令違反行為を認識した労働者がマスコミにリークしそれが報道されることは、「犯罪の片棒を担いでいる。」どころか、正に公益通報保護法が予定しているところです。
 
 氏は更に

「③他方でこうした守秘義務の例外として『公益通報』制度があります。公益通報制度は犯罪に加担させられた職員の告発を守るための制度であり、一番弱い末端の職員の味方になっている、といってもいいでしょう。第三者によるリークは、①犯罪行為なので今回の報道のように証拠の提示ができなくなり第三者の検証可能性を奪う、②そしてなによりも公益通報をする権利を有している職員の告発の機会を奪う、という大きな問題を抱えています。」

と主張していますが、仮に誰かがマスコミにリークしたとして、別段それによって、その他の人が同一の事項について公益通報ができなくなるわけではなく、公益目的に基づいて新たに行政機関等に公益通報することは可能です。
 上記の氏の主張は、全くの事実誤認と言う他なく、ここでも氏が公益通報者保護法を全く理解していない事及び、マスコミ、特に朝日は常に間違っており、ともかく悪い事が起こったらその原因は無条件に、マスコミ、特に朝日新聞であるという「朝日・マスコミ常謬神話」に囚われている事は明らかです。

 最後に氏は

「今回のリーク報道は職員の自殺の直接の引き金となった可能性があることを報道関係者も私たちも忘れてはならないとおもいます。」

としているのですが、これこそとんでもない主張です。勿論私はこの職員の方の自殺の原因を存じ上げませんが、何か起こった時に、それを誰かに帰責するには、「物理的因果関係」ではなく、「法的相当因果関係」が必要です。
 仮にこの職員の心の中で、報道が、自殺を実行する何かの契機になったとしても、それは予想できることではないし、法律的に帰責されるような事ではありません。また、そのような法律論を越えても、現在までなされている報道で、この職員個人を批判するようなものは全く見当たらず、報道されている限りでは、この職員は、森友学園問題についての長時間労働や、更には「常識が壊された」事に悩んでいたとの事であり、原因はマスコミ報道ではなく、近畿財務局による勤務実態そのものである事は明らかでしょう。
 にも関わらず氏がこの様に主張するのは、氏が、マスコミ、特に朝日は常に間違っているという「朝日・マスコミ常謬神話」と、政府・行政は常に間違う事はないという「政府・行政無謬神話」に囚われているからと考えざるを得ません。

 更に申し上げると、上記の通り氏は、公務員の守秘義務の中身を知らず、公益通報者保護制度についても法律も中身も恐らく全くご存知無いまま上記記事をお書きになっている訳で、何一つ調べなくてもご自身は一切間違う事はないという自分無謬神話もお持ちなのではないかと、疑ってしまいます。

 いずれにせよ上記の通り、氏の論考は、数多くの法律上の事実誤認に基づくうえ、少なくとも朝日・マスコミ常謬神話と政府・行政無謬神話に基づいたものと判断せざるを得ず、何ら考慮に足りるものではないと私は思います。


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