さて、前回に引き続き日本の財政問題ですが、麻生氏はじめとするリフレ派の「国債はいくら積み上がっても大丈夫理論」の第2の論拠

②政府がお金を刷ればいいから、国債はいくら発行しても大丈夫

について解説しましょう。

ここではまず、「通貨とは一体何か」と言う、極めて深遠な問題に正面から取り組まざるを得ません。近頃「異次元の緩和」「量的緩和」は言葉としてはやっていますが、一体全体日銀が「通貨を供給する」とはどういうことなのか、疑問に思っている方も多いものと思いますので、私の理解で、例によって「米山家」に例えて解説させて頂きます。

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 さて、一度切れかけた良子さんが、太郎さんが「真面目に働く」と言うことで矛を収めて、今まで通り太郎さんの書く借用書を、黙って良子貯金箱に入れてくれるようになりました。米山家に平和な日々が戻ったのです。

 ところがその平和な日々が、今にも崩れそうなのを、太郎さんの母、ケイコさんは見抜いていました。太郎さんは根は真面目なので一生懸命求人に応募はするのですが、なかなか就職が決まらないのです。でも、それも無理もありません。実は、太郎さんの父、つまりケイコさんの夫、クニオさんは高齢によって介護が必要で、太郎さんは1日3時間を、介護に費やしていたからです。

 「このままではまたいつか、良子さんが切れて米山家が危機に陥ってしまう。何とかする手立てはないだろうか?」ケイコさんは考えました。そしてハタと、ものすごい名案を思い付いたのです。「そうだ、あれとこれを交換すればいいのよ!」

 働き者で器量よしの良子さんが無職の太郎さんを支えていたのは勿論「愛」が最大の理由ですが、実はもう一つ、米山家を飛び出すに飛び出せない事情が良子さんにはあったのです。そう、米山家の「家(住宅)」は、すべてクニオさんのものだったのです。そして太郎・良子夫婦は家賃を払わず、いわば居候状態で暮らしていました。これでは、時にむかっ腹が立つことがあっても、おいそれと出ていくわけにはいきません。勿論、太郎・良子夫婦と、クニオ・ケイコ夫婦の間でいつかはきちんとしなければならないという認識はあったのですが、太郎さんの失業もあって、この問題は先送りになっていました。

 ケイコさんは、この両方を一気に解決する、妙案を思いついたのです。まず、ケイコさんは、「1000 Yon券」を100枚発行することにしました。発行した「1000 Yon 券」は、勿論ケイコさんの手元にあります。そして太郎さんでも良子さんでも、クニオさんを介護したら1時間当たり「1000 Yon」を支払うと決めたのです(子供の「肩たたき券」みたいなものですね。)。そしてそれと同時に、太郎・良子夫婦から、1月に10万Yon の家賃を受け取ると決めました。そう、これでケイコさんは1月に10万Yon -100時間の介護報酬を太郎・良子夫婦に支払い、家賃として10万Yon受け取ることになったのです。米山家家庭内通貨、Yonの成立です。

-「子供の遊び?」とお思いでしょうか?ところがこの例えは、結構よく通貨と言うものの本質をついていると、私は思っています。引き続き、米山家に何が起こったか見てみましょう。

 家庭内通貨 Yon は、最初はケイコさん以外の全員に「冗談」と思われました。良子さんは笑って、「ははは。まあお義母さんがおっしゃるなら、やってみます。今までと何も変わりませんしね。」と言いました。
 ところがあにはからんや、Yon は米山家の様々な問題を、ほとんど自動的に解決してしまったのです。
 まず、太郎さんの顔が、生き生きとしてきました。今までだって太郎さんはクニオさんの介護をしていたのですが、それは目に見える評価にはなりませんでした。でも、これからは違います。太郎さんの介護には 10万Yon と言う値段がついたのです。
 良子さんと太郎さんの生活費は家賃分10万円(Yon)上がり30万円になり、良子さん、太郎さんの負担はそれぞれ15万円になりましたが、これは円で払ってもYonで払ってもよいことになりました。太郎さんは15万円の生活費のうち10万円はYonで支払いますから、毎月の借用書の金額は5万円で済むようになりました。
 そしてさらに良いことに、Yonは良子さんと太郎さんの家事・介護の分担をスムーズにしました。介護は、基本は太郎さんがやっていましたが、時には良子さんがやる時もありました。その時良子さんがYonを受け取れるので、良子さんは「何で私ばっかり働いているのに、更に介護をしなければならないんだろう。」と言う疑問を感じなくて済むようになったのです。家事も同じで、もともと良子さんと太郎さんは家事を分担していましたが、仕事の都合でお互いの分担を相手にやってもらうことがありました。その時に、Yonをやり取りすることで、公平感のある分担が可能になったのです。

-さて、上記の状況でケイコさんがやったことは、実はかなり「日銀」が「通貨発行」の際にやっていることに近いものです。ケイコさんが発行したYonは、ケイコ・クニオ夫婦にとっては、「負債」です。このYonで1月分の家賃を支払われたら、少なくとも1月「家」に住まわせなければなりません。今までなら、大ゲンカしたら星一徹張りに「出ていけ!」と言ましたが、きちんと家賃を払ってもらった相手にそれはできません。つまりYonの発行は、「家」に住む価値を相手に渡している-「家」と言う資産価値に裏打ちされた負債(相手から見たら債権)を、渡しているのです。金本位制の時代通貨を裏打ちする資産は「金」でしたが、非兌換紙幣となった今、基本的には「日銀の資産」が円の裏打ちとなっています。

 そしてここが重要なのですが、Yonを発行すると言っても、意味なくばらまく-米山家の例なら、テーブルにおいて誰かがとっていくのを待つことは、できません。それでは、Yonが、理由なく手に入れられる、無価値なものになってしまうからです。米山家においてYonは、介護サービスの対価として引き渡され、流通するようになりました。日銀の発行する円は具体的な財やサービスではなく「債権」の対価として民間に引き渡されますが、それはその債権が化体している物やサービスを買っていることと、本質的に同じです。

 以上、Yonの発行によって、今までは、実際には存在していたけれど、値段がついていなかったサービス-太郎さんの介護労働と、ケイコ・クニオ夫婦の住居提供に、「値段」が付き、その対価が流動性を持って新たなサービスにも次々と値段が付いていったことがわかりました。
 これこそが通貨発行の本質だと、私は思います。つまり「債権(若しくはそこに化体した財やサービス)」と言う流通性のないものを日銀が買うことによってそこに値段がつき、その対価である円が市場に流通することで次々と値付けが連鎖していくことこそが、通貨発行というものなのです。

 逆に言えば、少なくとも潜在的な財やサービスのやり取りがないところに、通貨を発行することはできません(よく考えれば、当たり前のことです)。「日銀がお金を刷ればいい」と言いますし、確かに刷るところまでは輪転機でできますが、それを民間に手渡すには、財やサービスの取引に裏打ちされた「債権」、少なくとも「国債」が必要で、それが存在しないとき-民間(若しくは国)の潜在取引が存在しないときは、刷った通貨を発行することができなくなってしまいます(若しくは通貨価値そのものを破壊するような方法での発行しかできなくなります)。
 このことを、麻生氏をはじめとする「政府がお金を刷ればいいから、国債はいくら発行しても大丈夫」理論の信奉者は見逃しています(実際日本の国債市場は長引く異次元の緩和によって干上がっており、これ以上の通貨供給が技術的に困難になりつつあります。)。

 さて、解説が長くなってしまいましたが、以上のようにして米山家で流通が確立したYonは、それでも月5万円づつ積み上がる太郎さんの累積債務にどのような影響を与えるのでしょうか?麻生氏が主張するように、いざとなったらケイコさんがYonを刷りさえすれば、すべて解決するのでしょうか?

 続きは次回、「日本財政は破綻しないのか②-2 ~もしも米山家でインフレが起こったら~」をお楽しみ


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